深田 上 免田 岡原 須恵

ヨケマン談義11. 昔懐かしふるさとの味

11-10. 酢蛸

 紅白のおめでたく色づけされ、甘酸っぱく、歯切れは少々悪いが、噛みしめているといつの間にか喉の奥に収まってしまうのが図1に示す「酢だこ」である。正月や寄合行事には「煮しめ」と同じく、必ず出される人吉球磨地方定番の肴(さかな)である。ここに紹介するのは、お嫁さんが人吉球磨地方出身の方のブログである。

 「お正月はカミさんの実家のある人吉・球磨の地方に出かけた。ご馳走の一つが酢蛸、真っ赤に色付けされた酢蛸を最初に見たときはどうして、険しい九州山地の山々に囲まれた盆地のこの地で、何で酢だこがご馳走なのかと驚いた。急流球磨川沿いの険しい道を通らないと海に通じない人吉球磨地方では海のものは一番のご馳走だったのだろう。でも、以前は鮮度を保つことができないので酢でしめたタコが名物になったのではなかろうか」。筆者もこの方と同じ思いをもっていた。この地方には漁港もなく、海も遠く、どこから酢ダコは持ってくるのだろうと最近まで思っていた。実は、人吉の東漆田町にその生産販売会社があった。その代表、羽月忠寛さんに聞いた酢蛸推奨の弁である。

酢蛸 蛸
図1. 酢だこ(写真:人吉・池田屋酢だこ)

 「酢蛸がどこまでメジャーであるかは不明ですが、私の取り扱う池田屋の酢だこは、多良木町だけでも数千万円の売り上げです。私の会社のネット通販におきましては、大阪、愛媛、東京、愛知、長野、稀にですが北海道、東北からもご注文を頂いております。酢蛸の蛸は北海道産のミズ蛸ですが、年度によっては青森産に変わることもあります。足一本で1から1.5キロにもなる大ダコです」。

 北海道の根室や釧路の荒波で育った大蛸を大釜で茹で上げ、秘伝の調味液に漬け込んだものだけあって、酢蛸1kgが7,800円(税込)で結構な値段である。もっと安価に、手軽に酢蛸がつくれ、味わえないものかと、筆者は池田屋の酢蛸を偽造してみることにした。

私製① 私製②
図2. 筆者の無手勝流の酢だこ

 まず、酢蛸は、市販の刺身用の蛸を買い、角切り昆布や鷹の爪を用意し、蛸とこれらをジップ付きの袋か瓶に入れ、寿司酢を蛸が浸る程度まで注ぎ入れる。蓋を閉じ冷蔵庫に1晩か2晩おけば完成である。長く漬け置くと身が酢でシメが過剰になり硬くなってしまう。偽造した瓶詰酢蛸を図2に示した。図の左が蒸したタコ足を刺身用にスライスしたもの、2パック分と寿司酢である。これらに角切り昆布や粉砕鷹の爪を瓶詰したものが右である。スライスしたものではなく、タコ足のままブロック状態で漬け込んだものが右端である。タコ足のぶつ切りでも可能である。  

 さて、味であるが、親子三代にわたって伝わる秘伝の調味液に漬け込まれた人吉池田屋の酢蛸には適(かな)うはずはない。

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